岐阜地方裁判所 昭和55年(わ)73号 判決 1980年4月25日
本籍
韓国慶尚南道巨済郡巨済面小浪里二九九番地
住居
岐阜県可児郡可児町桜ヶ丘一丁目一四四番地加藤直美方
職業
シルク転写印刷業
昭林一幸こと李俊浩
一九四〇年五月三〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は審理を遂げ次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役六月及び罰金七〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
但し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、岐阜県土岐市土岐津町土岐口四四六番地の八において、シルク転写印刷業「土岐シルク」を経営している者であるが、岐阜県多治見市音羽町一丁目三五番地所在の多治見税務署において、同税務署長に対し、違法であることを知りながら、あえて、架空の外注工賃を計上したり売上の一部を除外して、所得金額を秘匿し、虚偽過少の所得税確定申告書を提出する不正の行為により、左記のとおり所得税を免れたものである。
<省略>
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人の
1 当公判廷における供述
2 検察官に対する供述調書
一 多治見税務署長大蔵事務官作成の証明書(検察官請求証拠等関係カード番号71、以下同じ)
判示1の事実につき
一 右証明書(1)
判示2の事実につき
一 右証明書(2)
判示3の事実につき
一 右証明書(3)
(法令の適用)
一 該当法令
三回に及び所得税の脱税、所得税法二三八条(いずれも三年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金又はこれを併科)
二 選択刑
右懲役刑と罰金刑の併科
三 併合罪加重(四年六月以下の懲役と千五百万円以下の罰金)
刑法四五条前段、四七条本文、四八条二項、一〇条
(懲役刑については、犯情の最も重い判示3の罪の刑に法定加重、罰金刑については、所定の罰金額を合算)
四 宣告刑
懲役六月及び罰金七〇〇万円
五 労役場留置(金二万円を一日に換算)
刑法一八条
六 懲役刑の執行猶予(三年間)
刑法二五条一項
(情状)
被告人の脱税額は、かなりの虚偽申告であり、約二八五〇万の巨額にのぼり極めて悪質である。かかる行為は、国民の納税意識をすこぶる殺ぐもので、社会に与える影響も大きく一罰他戒の見地から厳しく処断されなければならない。また秘匿金は一部遊興費に使用するなど、犯行の態様は必ずしも良くない。
但し、遺憾ながら、被告人の如き自由業では必ずしも厳格な自主申告がなされていないことも事実で、被告人のみを責めることはいささか酷であろう。秘匿金で実弟の事業を援助したことも若干の同情の余地はある。査察後は、反省、悔悟して修正申告の上、本税を納付しており、ある意味で事実上の制裁を受けている。今後は、税理士の指導を受け、再犯なきを誓っている。
そこで被告人に更生の励みとなる量刑を思料した。
よって、主文のとおり判決する。
(公判出頭訴訟関係人)
検察官(検事) 熊崎勝彦
(裁判官 丹羽日出夫)